松野十四松の特異性が松野カラ松と松野一松の関係性を紐解く可能性について

少し前に書いたこの記事がTwitterでじわじわと拡散されているようで大変嬉しい。

今回はこの話に関連して「松野十四松」の特異性について触れ、彼がこの二人の関係性を紐解く可能性について言及したいと思う。

その前に、この論では押井守さんが好んで使用している「犬・鳥・魚」のモチーフの解釈をそのまま「おそ松さん」のキャラクターに強引に当てはめていることを断っておく。つまり「おそ松さん」製作サイドの意図していない読み取り方をしている可能性が十分にあるということだ。であるから、あくまでこの話は私(yurico15)の個人的なキャラクター考察論として楽しんでいただければと思う。

前回の記事では

・「おそ松さん」OP映像において、松野一松の口からハト、松野カラ松の耳から魚が出ていく描写がある。
・数多くのアニメ作品を手がけた押井守監督は、「犬・鳥・魚」という動物のモチーフを好んで多用している。

ことを紹介し、いくつかの持論を展開した。詳しくは上の記事をご参照のこと。

この記事を公開したところ、記事では取り扱っていなかった「犬」の要素について以下のようなコメントが届いた。

「松野十四松=犬」説

松野一松の口からハト、松野カラ松の耳から魚が出ていく描写について【おそ松さんOP映像】 - だれも知らない

十四松に勝手に犬のイメージがあるのだけれど、パチンコ警察からだろうか

2015/11/20 22:26

id:likethedream13

おそ松さん、犬と聞いて思いついたのが
OP映像ではなく本編ですが、3話のパチンコ警察で十四松が「犬」の格好をしていたことです。
もし、犬・鳥・魚のモチーフであれば関係あるのではないか?と思いコメントさせていただきました。

松野一松の口からハト、松野カラ松の耳から魚が出ていく描写について【おそ松さんOP映像】 - だれも知らない コメント欄より

この指摘を受けて「おそ松さん」OP映像を振り返ってみると、松野十四松が黄色のバランスボールで遊んでいるシーンが次第に気になってくる。松野一松からハト、松野カラ松から魚が出てくる場面でも松野十四松は黄色のバランスボールにしがみついている。なんとなく、ボール遊びをしている犬に見えなくもない……?
そして指摘があったように第3話の「パチンコ警察」というショートコントにおいて、松野十四松は6人の兄弟のうち唯一犬となって登場している。
ついでに「おそ松さん」旧1話「ふっかつ!おそ松くん」において、イケメン化した松野カラ松が「猫のような見た目ではあるがわんわんと鳴く小動物」を車から救い出しているシーンがあったことも思い出していただきたい。つまり、松野カラ松は旧1話で「犬」を助け出している。これをふまえて「おそ松さん」第7話のこちらのシーンを見ていただきたい。

松野十四松に「犬」のモチーフが仮託されていると考えると、これは松野カラ松による二度目の「犬助け」だ。

松野カラ松の「犬助け」

ではここまで確認したところで、押井守さんの用いる「犬・鳥・魚」のモチーフに関する小原篤さんの論考を以下に引用する。

 〈鳥〉=言語、精神、神、天使、少女、子ども 

 〈犬〉=仲間・主人を求める者、さすらう者、男

 〈魚〉=本能、夢、無意識、性欲、身体、衝動、暴力、女、母、妻

 この分類を基に押井作品を見直すと、〈鳥〉と〈魚〉が結びついて危機に陥った世界に〈犬〉が現れ〈鳥〉と〈魚〉を分離(除去)して平安を取り戻そうとする、という基本構造が浮かび上がってきます。

朝日新聞デジタル:「犬・鳥・魚」講座その2 ヒロインは不吉だ - 小原篤のアニマゲ丼 - 映画・音楽・芸能 より

この記事のタイトルを「松野十四松の特異性が松野カラ松と松野一松の関係性を紐解く可能性について」という長ったらしいタイトルにしたのはこの部分との照らし合わせによるものだ。「おそ松さん」第2話において松野カラ松と松野一松だけがビールでなく焼酎(水?)を飲んでいるなど、他の兄弟とは異なる共通点をこの二人が有していることは既に示されており、その意味では「おそ松さん」の世界でも「鳥」と「魚」の結びつきがみられる。ちなみに私の彼氏にこの話をしたところ「確かにそうかも。俺にはカラ松のナルシストぶりは自信のなさを裏返したものにしか見えないんだよね。だからそういう意味で一松とカラ松はよく似ていると思う」という感想をもらったのでこれも紹介しておく。

さて、松野カラ松に仮託されている「魚」のモチーフには「本能、無意識」などの意味がある。松野カラ松は第2話では体を張って車から子犬を助け、第7話では自分に刺さった矢を抜くより先に松野十四松に突き刺さっている矢を抜き取ろうと奮闘していた。つまり松野カラ松は本能的に自分よりも犬を助ける人物であるということがわかる。そして彼がそこまでして助けようとする「犬」には「仲間を求める者」という意味があることから、松野カラ松は「仲間を求める者」を自分の身よりも大切にする人物であるといえる。

松野十四松の特異性とは何か。

ではタイトルに書いた「松野十四松の特異性」とは何か。それが引用した箇所にある「〈鳥〉と〈魚〉を分離(除去)」するという彼(に仮託された犬モチーフ)の性質にある。

思い出していただきたい。第5話において、なかなか友達のできない(作らない)松野一松が「猫と話せるようになればいいなあと思って」デカパンに相談に行き、話を進めていったのは松野十四松である。猫と話せるようになれば、松野一松には「会話のできる友達」ができる。つまり松野十四松は、松野一松が誰かと会話ができるようになってほしいと願っているのだ。

ここで松野カラ松と松野一松の関係性に注目して「おそ松さん」を視聴していた方々はピンと来ることがあると思う。松野カラ松と松野一松が会話をしている場面は実はほとんどないということだ。掴みかかる、バズーカ砲を撃つといった手段を用いて何らかの意図を伝えようとしている場面はあっても、その間には会話がほとんど存在していない(第7話放送時点では)。

一方、松野一松と松野十四松との間ではたびたび会話の場面を見ることができる。このことから松野一松は松野カラ松に対しては会話で何かを伝える必要性を感じていない可能性が考えられる。さきほど示したように松野カラ松と松野一松の間で他の兄弟と異なる類似性が確認できるため、松野一松は「似ている」ということを理由にわざわざ会話をしようとしていないと考えることもできる。というのも松野一松はたびたび「猫と合体した姿」が描写されるなど、猫とよく似たところがある人物として描かれている。第7話でもスタバァの客の前で脱糞しようと力んでいる様子が描かれていたが、実は猫はストレスを感じたとき粗相をする生き物であるらしい。叱らないで!猫が突然トイレ以外で排泄する理由とは | イヌモネコモという記事では以下のような記述がある。

猫は単独行動をする動物であると言われていますが、それは単独で狩りをするという意味であって、孤独を好むという意味ではありません。それどころか、猫は他の猫たちとゆるやかな集団をつくる、社会性の高い動物であるということがわかっています。でないと人間とともに暮らすことなどできなかったでしょう。

トド松が慶大生と嘘をついてスタバァで働き、女性との合コンの約束を取り付けていたことは他の兄弟たちにとって大きな衝撃であった。というのも彼が兄弟の中でひとりだけ、他の兄弟を差し置いて自立しかけていたことを意味するからである。なんだかんだで全員でだらだらと日々を送っていたいので、誰か一人が抜け駆けしようとしたならそれを全力で阻止するのが彼らの性質だ。このAパートのすぐあとに今川焼きの分配について牽制しあう兄弟たちのエピソードが挿入されていることで、そのことが強調されている。6つ子の中でもっとも兄弟たちへの依存度が高い(と思われる)一松にとっては大きなストレスを感じる出来事であったことが示唆されている場面なのだ。一松が猫を可愛がっているシーンはたびたび見られるが、「おーよしよし」なんて喋りかけたりはしていない。自分と似ているから言葉が不要なのだ。

ちなみにこの場面での松野十四松はというと、「トッティ!」と上機嫌に叫ぶばかりで他の兄弟たちとは様子が違う。そう、松野十四松は兄弟の中で唯一兄弟の自立に対して寛容な態度を取ることができる人物だと推測される。松野一松に「会話のできる友達ができればいい」と彼が願っている様子からも同様のことが指摘できる。これが松野十四松の特異性である。他の兄弟がトド松によりトイレにぶち込まれたあともただ一人こぼれたコーヒーの後始末をしていた十四松の健気さが愛しいと思った視聴者は多かったことだろう(私がそう)。

そして松野十四松のこの願いが叶えられたとき、松野一松が松野カラ松や猫に対して行ってきたような「会話なしに自分の思うところを伝える」ことへの依存度が相対的に低下することになる。その意味で、松野十四松こそが松野一松と松野カラ松の関係性を紐解く重要な人物である可能性が指摘できるのである。

ちなみに十四松に刺さった矢をカラ松が抜こうとするシーンについて、大変興味深い指摘が既にされている。

十四松に「犬」のイメージが仮託されているという説でこのことを説明するなら、彼が「仲間を求める者」であるから。つまり誰よりも仲間を求める思いが強いのでより深くトド松の言葉が突き刺さったものと考えることが可能である。

 

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