腐女子からみる「おそ松さん」人気の理由~声優は“入口”にすぎない~
テレビアニメ「おそ松さん」人気が凄まじい。作品投稿SNSの大手・Pixivの総合ルーキーランキングの1位から23位すべてを「おそ松さん」のファンアートが占めた(12日0時時点)ことからもその人気が推し量れる。
投稿されたファンアートにはBL要素を含んでいるものも多い。高い評価が付けば問答無用でランキングに入る仕様からBLを好まないファンとの住み分け(ゾーニング)のためのタグが機能を果たしているといえない状態であるため、BLを好まないファンからの厳しい意見も散見される。
おそ松さんを普通のギャグ漫画として楽しみたい俺としてはおそ松腐女子は本当にキモいので死んでほしい ていうか声優が声豚を引き寄せるようなラインナップだったし声優が好きなんだったら声優の絵でも描いとけや おそ松のBL絵と描いてる奴流石にキモ過ぎだろ
— 藤原・A・うーろんちゃ、 (@otyva) 2015, 11月 5
R-18(G)作品として投稿者が登録した作品は、設定画面から非表示にできる。同性愛の描写を苦手とするユーザーのためにBLやGLを非表示にできる設定ができるようになるといいのかもしれない。
ただ、今回私が書き連ねようとしているのはそういう話ではない。
今回は、「おそ松さん」がここまでヒットしている理由を「おそ松さん」ファンである一腐女子の立場から記しておこうと思う。
>声優が好きなんだったら声優の絵でも描いとけや
声優が好きだから声優の絵を描いている人は既にたくさん存在している。「おそ松さん」ファンが声優のイラストでなくキャラクターのイラストを次々と投稿している理由は実に明快で、作品そのものと登場キャラクターを愛しているからだ。キャラクターが好きだからキャラクターの絵を描いている。それだけなのだ。
と、ここまで下書きして眠ろうとしたところで「おそ松さん」がなぜ人気となったのかを考察したというエントリを発見した。
「しまった、先に書かれたか」と焦って目を通してみるも、ぜんぜんそんなことはなかったので、私が腐女子の視点から「おそ松さん」の人気を紐解いていくことにする。
おそ松さんは、一見して腐女子アニメには見えない。 だが、第一話に14分もかけてみっちり腐女子の心を鷲掴みにしたおかげで、腐女子人気を勝ち得ながら、それ以外の純粋にアニメが好きな層も同時に勝ち取ることに成功したのだ。 製作はわかっていた。
「おそ松さん」の人気は製作によって意図的に作られていた。 - アリス in GorillaRepublic
【※12日17時追記/引用させていただいた上記の記事は既に削除されている】
この一節を読み、思わず「あんたはわかってないな」と呟いてしまった。
第1話で6つ子がイケメンアイドルと化したことを「腐女子の心を鷲掴み」にするための手法だと考えたようだ。だが、Pixivに投稿されているイラスト作品をよく見て欲しい。イケメンアイドルと化した6つ子イラストよりも圧倒的に赤塚不二夫テイストの6つ子のイラストの方が多い。実際に腐女子の心を掴んでいるのは赤塚不二夫テイストの6つ子なのだ。
確かに「おそ松さん」には(特に女性からの)人気の高い声優が起用されている。6つ子だけで長男から順に櫻井孝宏さん、中村悠一さん、神谷浩史さん、福山潤さん、小野大輔さん、入野自由さんという豪華ラインナップ。さらにイヤミ役に鈴村健一さん。キャストが発表された時に目を疑ったほどだ。正直、アイドルアニメが始まる予感しかしなかったのは事実だ。
お蔵入りとなったテレビアニメ第1話は、そういう意味では声優ファンの察知した予感に対して忠実に作ってみたという感がある。アイドルアニメやると思ったでしょ!?そう、ほんとにアイドルアニメやっちゃうんです!こういうのがお好きなんでしょう?と人気作品の要素をこれでもかというほど強引に盛り込み、そして派手にぶち壊してみせる。ギャグアニメやるんですよ、なんとびっくりこの豪華メンツで。ということを強調しているように私には感じられた。
あの第1話は腐女子に媚びを売るために人気作品のパロディを次々にぶち込んだ訳ではない。むしろ逆で、あの演出は「とりあえずこういうのやっとけば気に入ってくれるんでしょ?人気出るんでしょ?」という煽りである。だからこそ派手にぶっ壊すのだ。
第1話で6つ子たちがアイドルのように振舞ったのは、「昭和の顔立ちやギャグで人気が取れる時代はもうとっくに終了している」からである。だから人気作の真似事をして体裁を整えようとした(のち盛大に失敗した)。
そもそもイケメンアイドルと化していたのが「おそ松さん」ではないことも注目しておきたい。第1話のタイトルは「ふっかつ!おそ松くん」だ。テレビアニメとして復活した時点では彼らはまだ「おそ松くん」だった。お蔵入りしたあの第1話は序章にすぎないということは、本編である「おそ松さん」が始まったとき、イケメンアイドル化して盛大にやらかしてから10年くらい経っていることを長男・おそ松が明言していることからもわかる。
つまり「とりあえず人気出そうな要素は一通り盛り込んでみたけどそれも失敗したし、もうやることは何も見つかりません」という状態でスタートするのが「おそ松さん」なのである。
腐女子たちは萌えるための手がかりを、ゼロから探し始めることになった。声優はただの入口にすぎなかった。釣られてホイホイと入ってみたら「こういうことさえやってれば人気出るんでしょ?」と煽られ、彼らの王国が崩壊していく様子を見せつけられる始末である。
「赤塚先生はもう死んだ。松野家の6つ子は人気を手に入れるためにあれやこれややってみたけれども上手くいかなかった。もうやることは何も見つからない。行動は起こしてみたけれど何も見つけられなかった。そうしておそ松くんとしての彼らもまた死んだ(崩壊した)」
第1話とはこういう話である。決して腐女子人気を獲るべくああいう演出に出たわけではないと私は理解した。
ではなぜ人気が出たのか。
それは「おそ松さん」の物語にはたっぷりと行間がとられていることが一因に挙げられる。AパートとBパートで話がぷっつりと途切れていることで「このあとどうなった」という妄想を自由に膨らませやすいのだ。
腐女子からの人気を獲得するには「餌を与えすぎない」ことが何より大事だ。いや腐女子に限らず、二次創作作品を手がける人々は「原作ではこういうことになっているけど、こういうのもアリだな。いやむしろ最高だな」という自分のムフフな妄想を表現することに生きがいを見出している。だからファンからいいように解釈できる行間がたっぷりととられていることが好ましい。昨今の人気作品の条件ともいえる。
【※22日1時30分追記】この部分に「タイバニ」のファンから聞いた話を書いていたがタイバニのファンに対して不愉快な思いをさせる表現が含まれていたため削除してお詫びさせていただく。なおこの部分に掲載していた文章が一部改変されて動画に使用されるという出来事が発生したが、すでに解決済み。
「おそ松さん」は「何もやることが見つからない(愛されるための手段を見つけられない)」6つ子の日々の生活を描いたアニメである。そこにはわかりやすい萌えの記号は配置されていない。配置してみようと一通り試行錯誤した上で、盛大にやらかしたためである。
創作活動は「餓え」から生じる。
「おそ松さん」は腐女子に餌を与えすぎないよう餓えた状態で這い回らせることでファンアートを次々に送り出してもらうことに成功したジャンルなのだ。
異論は認める。むしろ異論が聞きたい。
【※12日17時追記】
この記事に対して寄せられたブックマークコメントを元に上記の記事を書いた。よければこちらもどうぞ。
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